草々草子

全略出来ればどんなによかったか。

豚に真珠婦人

いつの話であったろうか、高校時代の私がお金を持っている時であるから、正月からそう遠くない時期であったと記憶している。何より、大勢で笑った息の白かったのを覚えている。私は人間の死と色恋云々を除いて基本的に何事にも執着を持たないが、それは私の貞操に対してもそうであった。ある日に男子生徒のみにて編成された高校のクラスメイトが私にこう言うのである。

「出会い系って本当に出会えるんかな?」

と。私は知らん存ぜぬと言い通しはしたが、彼の願望は切実なようであったし、正直私も暇であった。それなら私が人柱となりお前に何かしら始めるにしろやめるにしろきっかけにしてくれ、と言って私は出会い系サイトを始めるに至ったわけである。

すると来るわ来るわ掛かる声の数々、副収入としては十分割りに合うようで、相手を選ぶに時間はかからなかった。それでいてホテル代金別2万円という意味を指す呪文である「ホ別2」という言葉も初めて知った。そこでかろうじて自由恋愛を目的としていそうな女性を探させ、友人が選んだその人とのやり取りが始まった。

20代と書かれてはいたが、やり取りにおいて私が高校時代の頃には既に死語に片足を突っ込んでいる文体、それもハートマークが大量に添えられている事を見るに、きっと30代は裕に越していたとみて良いと私は思った。友人の女性を選ぶ尺度に多少の心配を持ちつつも、どこがいいのかと聞いてみるば写真に一目ぼれしたと言っていたのをよく覚えている。出会い系サイトにおいて写真の信用度がいかほどであるか、私でも知っているところではあったが、何分理科の実験程度の心持で挑んだ事柄である。私も別にいいやと会う約束を取り付けたのであった。

当日、友人とはメッセージでやり取りを行いつつ、どんな人物が来るかは遠巻きに眺めているつもりであった。女性からの「どんな服を着ているか」という質問に自分が来ているパーカーの中身のTシャツの色を答え、待てば、まさか自らの後ろから声が掛かったのである。

私は知りもしない他者をあまり愚弄したくない故に、全て事実のみを客観的に書くが、目測に身長はヒールの分を除き150と少し、体重は70から80kg程度。顔に関しては主観が込み合う故に致し方無いが、「かの毒舌なデラックスタレントから化粧を抜き取って2発殴った程度の顔」と私は友人との話において形容した。声はたばこにより掠れていた、蚊の鳴くような高い音が声とは別に息をする度に出ていた。そして、エンカウントしたその、女性である事を判断し辛い程度の人間に腕を後ろから押さえられたのである。痛みこそ感じなかったが、鞄の紐まで絡まった80kgの重りを振り払う力は私には起こらなかった。それに、そもそもが自業自得であった。

最寄りのホテルに引きずられていった。終始私はぽかんとしていた。あまりに呆気なく事が進んだ事に加え、「初めてなんでしょ、動かなくていいから」と避妊具を付けられ無理矢理に張り型扱いをされた挙句一切達さずに金を取られた。書いていて陳腐な悲劇のように見えてしまうが、正直心の中では笑い転げていた。

ホテルを出て別れた瞬間実際に笑い転げてみた。友人に電話し、「悪い、今日は奢れ」とファミレスで二人また笑った。事の顛末は以上である。

最後に一言を言わせてもらえれば、今回の元作品「真珠婦人」は名作である。是非読んで頂きたい。お相手は何某、名前のない大馬鹿者がお送りした。